045-584-7777
愛猫が糖尿病と診断されたら:横浜市鶴見区のピア動物医療センターへ
はじめに – 横浜で猫の糖尿病治療をお考えの方へ
ある日、動物病院で「猫ちゃんが糖尿病です」と言われたら——
驚きや不安で、頭が真っ白になってしまうかもしれません。
糖尿病という病名は、人でもよく聞くものですが、「猫にもあるの?」と感じる飼い主さんも多いと思います。実は、猫にも糖尿病はあり、中高齢の猫ちゃんに特に多く見られる病気のひとつです。
でもご安心ください。糖尿病は適切な治療と日々のケアで、コントロールできる病気です。少しずつ知識を持ち、愛猫の様子を見ながら付き合っていくことで、ふだん通りの生活を取り戻すことも可能です。
この記事では、猫の糖尿病について、
「どうしてなるの?」「どんな治療があるの?」「気をつけることは?」
といった基本的なことを、飼い主さんの目線でやさしくご紹介していきます。
愛猫とこれからも安心して過ごしていけるよう、まずは一緒に知るところから始めてみましょう。
糖尿病の新しい治療薬(飲み薬)についても解説しておりますので、すでに治療を行っていて糖尿病管理・インスリン注射にストレスを感じていらっしゃる方の参考にもなるかと思います。糖尿病治療はここ数年で格段に進化しています。
当院は横浜市鶴見区の第二京浜沿いに位置し、神奈川区や港北区からも多くの飼い主様にご来院いただいております。近隣にお住まいの方はぜひ当院を頼りにしていただければと思います。
猫の糖尿病とは?
糖尿病というと、「甘いものを食べすぎたから?」とイメージする方も多いかもしれません。でも、猫の糖尿病はそういった単純なものではありません。
猫の糖尿病は、体の中で「インスリン」というホルモンがうまく働かなくなることで起こります。インスリンは、血液中のブドウ糖(血糖)をエネルギーとして使うために必要なホルモンです。この働きがうまくいかなくなると、血糖値が高いままになってしまい、さまざまな体の不調があらわれるのです。
糖尿病になると、たくさんお水を飲んだり、たくさんおしっこをしたり、食べているのにやせてきたりといった症状が見られることがあります。早期に気づいてあげることが、愛猫の健康を守る第一歩になります。
特に、中高齢の猫ちゃんや、少しふっくらしている猫ちゃん、オス猫に多く見られる傾向があります。
「なんとなく元気がないな」「最近よく水を飲んでる気がする」——
そんなちょっとした変化が、実は糖尿病のサインかもしれません。
糖尿病と聞くと心配になってしまいますが、きちんと治療とケアをしていけば、元気に暮らしていくことは十分に可能です。
主な原因とリスク要因
猫の糖尿病には、いくつかの「なりやすい理由(リスク要因)」があります。これらを知っておくことで、予防や早期発見にもつながります。
● 肥満(太りすぎ)
糖尿病の一番のリスクは、肥満です。体に余分な脂肪がつくことで、インスリンの働きが悪くなり、血糖値がうまくコントロールできなくなってしまいます。特に、運動量が少なく、食べるのが大好きな猫ちゃんは注意が必要です。
● 加齢
糖尿病は、中高齢の猫によく見られる病気です。年齢を重ねることで、体の代謝やホルモンバランスが少しずつ変化し、糖尿病を発症しやすくなります。
● オス猫の方がなりやすい?
はっきりした理由はまだ研究中ですが、オス猫の方が糖尿病になりやすい傾向があります。また、去勢手術によってホルモンバランスが変わることで太りやすくなり、それが糖尿病のリスクにつながることも。
● 他の病気や薬の影響
慢性の膵炎やクッシング症候群、高ソマトトロピン症といった病気が原因で、糖尿病になることもあります。また、ステロイド剤などの一部の薬も、長期間使うことで血糖値に影響を与えることがあります。
糖尿病のサインと診断方法
猫の糖尿病は、早期発見がとても大切です。できるだけ早く気づいてあげることで、治療もしやすくなり、猫ちゃんの負担も少なく済みます。診断方法についてもちょっと難しくなりますが解説しておきます。
● よく見られるサイン(こんな様子ありませんか?)
- お水をよく飲む(多飲)
- おしっこが多くなる(多尿)
- よく食べているのにやせてきた
- 元気がなく、なんとなくぼんやりしている
- 毛づやが悪くなる、毛並みがぼさぼさ
こうした症状は、血糖値が高くなっている(高血糖)ことが原因で起こることがあります。見過ごしがちな変化もあるので、日ごろの観察がとても大切です。
● 診断には血液と尿の検査が必要です
動物病院では、糖尿病が疑われる場合に、血糖値や尿糖(尿に糖が出ているか)を確認する検査を行います。ただし、猫はとても繊細な動物なので、通院や採血などのストレスだけで一時的に血糖値が上がること(=ストレス性高血糖)もあります。
そこで、より信頼性の高い診断を行うために、獣医師の間ではALIVE(Agreeing Language in Veterinary Endocrinology)プロジェクトの診断基準が活用されることがあります。
● ALIVE基準に基づいた猫の糖尿病の診断
ALIVEでは、以下のような条件をもとに診断が行われます。
■ 血糖値が明らかに高い場合(270mg/dL)
以下のすべて、または一部が確認されることで糖尿病と診断されます:
- 多飲・多尿・体重減少などの典型的な症状がある(他の原因がなければ)
- 高血糖性の危機状態(重度の脱水や意識低下など)
- 糖化タンパク(フルクトサミンなど)の上昇
- 尿糖の検出が複数回確認されること(ストレスの影響がない家庭での尿、かつストレスから2日以上経過したもの)
※症状があまり目立たず、飼い主さんが気づいていない場合もあります。
■ 血糖値がやや高い場合(126~270mg/dL)
このような場合は、次のうち2つ以上が当てはまることが必要です:
- 上記のような典型的な症状や高血糖の危機状態がある
- 糖化タンパクの上昇
- 家庭で採取された尿で、2回以上の尿糖の検出がある
● すぐに診断できないこともあります
ALIVEの基準を適用しても、糖尿病とはっきり診断できないグレーなケースも存在します。そのような場合には、一定期間ごとに状態を再確認する「定期的なモニタリング」が勧められます。
また、糖化タンパクの測定には信頼できる検査方法や基準値が必要で、ほかの病気や体質でも数値が影響を受けることがあります。したがって、診断は複数の要素を総合的に判断して行われます。
治療の基本:血糖値のコントロール
猫の糖尿病治療の目的は、血糖値を安定させることです。
血糖値が大きく変動してしまうと、猫ちゃんの体に負担がかかり、元気がなくなったり、危険な状態に陥ってしまうこともあります。
でもご安心ください。しっかり管理してあげれば、糖尿病の猫ちゃんもふだん通りの生活を送ることができます。
● 治療の柱は「インスリン注射」
ほとんどの猫の糖尿病では、毎日のインスリン注射が必要になります。インスリンは、猫の体の中でうまく働かなくなった「血糖値を下げるホルモン」を外から補うお薬です。
注射と聞くと不安になるかもしれませんが、猫ちゃんは意外と平気な子が多いです。細く短い専用の針を使うので、痛みもほとんど感じません。
注射は1日1回または2回。最初は動物病院でしっかり練習できるので、慣れれば飼い主さんでもご自宅でできるようになります。
● おうちでの血糖値チェックに「Freestyleリブレ」


インスリンを使ううえでとても大事なのが、血糖値の変動をきちんと把握することです。
「でも、毎日採血するのはかわいそう…」というのが多くの飼い主さんの本音だと思います。
そこで最近、猫の糖尿病管理で注目されているのが、
持続型血糖測定器「Freestyleリブレ」の活用です。
Freestyleリブレのメリット:
- 背中などにセンサーを貼るだけ。注射や採血を毎回しなくてOK
- スマートフォンをセンサーにかざすだけで血糖値が見られる。(同じ部屋の中にスマホがあれば勝手に測定してくれます)
- 1日を通しての血糖値の流れ(グラフ)がわかる
- 猫にも対応でき、病院に行かなくてもおうちで簡単に測れる
- リブレセンサーの費用も9000円程度であり、採血を何度もするより圧倒的に安い(別途、装着料や管理料がかかります)
特に、猫ちゃんが「通院ストレスを感じやすい」「何度も採血されるのがかわいそう」と感じるご家庭には、とても大きな味方になります。
リブレは動物用に正式販売されているわけではありませんが、多くの動物病院で応用的に使用され、非常に高い評価を得ています。動物病院で毛を刈って接着剤を使用して装着する必要がありますが、一度つければ2週間は持ちます。アプリで動物病院とリンクさせることが可能ですので、こちらでリアルタイムに血糖値情報を把握することが可能です。↓は実際にご使用いただいた飼い主様ですが、インスリンの使用量も記入していただき、病院としても非常に治療計画を立てやすくなりました。

● 食事療法も大事な治療の一部
治療では、低炭水化物・高たんぱくのフードに切り替えることが推奨されます。
猫は本来、肉食動物なので、糖質の多い食事はあまり得意ではありません。肥満であれば高繊維食(w/dなどのダイエットフード)も一定の効果が期待できます。
糖尿病対応の療法食にすることで、インスリンの効果をより安定させることができます。フードの選び方についても、獣医師と相談しながら決めていくと安心です。
● 血糖値が落ち着いてきたら…
治療を続けていくと、インスリンなしでも血糖値が安定する(寛解)ケースもあります。特に、早期に発見され、肥満や食事などの環境を改善できた猫ちゃんで見られることがあります。
ただし、一度寛解しても再発する可能性はあるため、定期的なチェックや生活の見直しは続ける必要があります。
治療を続けるうえで大切なのは、「完璧を目指さず、できることから少しずつ」です。
Freestyleリブレのような便利なツールを使いながら、猫ちゃんも飼い主さんも無理なく続けられる方法を見つけていきましょう。
SGLT2阻害薬という新しい治療の選択肢(センベルゴ)
これまで猫の糖尿病治療といえば「インスリン注射」が中心でしたが、最近になって、飲み薬による新しい治療法も登場しています。それが「SGLT2阻害薬」というタイプの薬です。猫用に日本で承認された商品名は、「センベルゴ」です。

● SGLT2阻害薬ってなに?
SGLT2阻害薬は、腎臓の働きに注目したお薬です。
通常、腎臓は血液中の糖を一度尿としてこし取ったあと、また体に戻してしまいます。SGLT2阻害薬はこの「糖を体に戻す働き」をブロックすることで、尿と一緒に余分な糖を体の外に出す仕組みです。
つまり、血糖値を下げるためにインスリンの力を使わなくても済むようになる、という新しい発想のお薬です。
● センベルゴの特徴とメリット
- 1日1回の内服薬で、注射の必要なし
- インスリンなしでも管理できる猫がほとんど(有効率90%)
- 飲み薬なので、注射が苦手な飼い主さんにも負担が少ない
センベルゴは、日本国内で猫の糖尿病治療薬として正式に承認された初のSGLT2阻害薬です。2024年以降、日本の動物病院で取り扱いが始まり、効果や安全性についても実績が増えてきています。インスリンを決まった時間に注射しなくてもいいというのはすごく大きなメリットです。
● すべての猫に使えるわけではありません
センベルゴはとても画期的な薬ですが、以下のような猫ちゃんには注意が必要です。
- 重度の糖尿病(ケトアシドーシスがある場合など)
- 重度の脱水がある場合
- 腎臓の働きに問題がある場合
また、この薬の効果はインスリンとは異なる働きなので、必ず獣医師の診断と指導のもとで使う必要があります。自己判断でインスリンを中止することは、猫ちゃんの命に関わるリスクを伴います。
● センベルゴは「選択肢のひとつ」
すべての猫がセンベルゴで治療できるわけではありませんが、
- 注射が難しい場合
- 血糖コントロールが安定しにくい場合
- 飼い主さんのライフスタイルに合わせた治療を希望する場合
こうしたケースでは、新しい希望となる治療の選択肢になることがあります。
すでにインスリン治療を行っている場合は切り替えに伴い糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高くなるとされているので、切り替える場合は細かいモニタリングが必要です。
糖尿病性ケトアシドーシスとは?
「糖尿病性ケトアシドーシス」という言葉を使用しましたが、聞いたことはありますか?
これは、糖尿病が悪化したときに起こる非常に危険な状態で、猫ちゃんの命にも関わることがあります。
糖尿病の猫を飼ううえで、この状態について知っておくことはとても大切です。
● どんな状態なの?
糖尿病でインスリンが極端に不足してしまうと、猫の体はエネルギーを作るために脂肪を大量に分解し始めます。その結果、「ケトン体」という物質が体内にたくさん作られ、体液が強く酸性になってしまうのです。これは糖尿病により過剰な尿が体外に出てしまい、脱水状態になることでさらに助長されます。これが「ケトアシドーシス(ケト=ケトン体、アシドーシス=酸性の状態)」です。
ケトン体自体も悪いのですが、それよりもケトン体が出る状態になってしまったことが問題です。
● 症状のサイン(こんなときはすぐ受診を!)
以下のような症状が見られたら、すぐに動物病院に連絡してください:
- 急にぐったりして元気がない
- ごはんをまったく食べなくなった
- 吐き気や嘔吐が続いている
- 呼吸が早く、深くなっている
- 口臭が甘酸っぱいようなにおい(アセトン臭)
- 脱水や、目が落ちくぼんで見える
糖尿病と診断されていない猫ちゃんでも、こうした症状があれば、実は気づかれていなかった糖尿病が悪化していたということもあります。診断は血液ガス検査、電解質測定、血中ケトン体測定が有用です。尿中にケトンが出ていなくても絶対に否定できるというものではありません。
● 治療は早急な対応が必要です
糖尿病性ケトアシドーシスは、時間との勝負です。受診が遅れるとすでに多臓器に傷害が出ていることもあります。
動物病院での点滴治療、インスリン投与、電解質のバランス調整など、入院での集中治療が必要になります。
早ければ早いほど助かる可能性が高まりますので、「何かおかしい」と感じたら、迷わず受診してください。糖尿病性ケトアシドーシスの治療はどこの病院でも「できる」わけではありません。命に関わる病気であり(致死率20-30%)、細かいモニタリング・治療見直しが必要ですから、救急・集中治療の経験が豊富な病院にあらかじめ通院しておくことをお勧めします。(ヒトの医療でも、顕著な臨床症状を呈する糖尿病性ケトアシドーシスは救急科・集中治療科で行われます)
● 予防のためにできること
糖尿病性ケトアシドーシスを防ぐには、次のようなことが大切です:
- インスリン治療を勝手にやめない(特に食欲がないときは要注意)
- 猫の様子をよく観察する(元気や食欲の変化に敏感になる)
- 定期的に血糖値をモニタリングする(リブレなどを活用)
- 体重や脱水の兆候にも気を配る
また、食欲が落ちたときやおう吐が続くときなど、「少し心配だな」と思ったときに早めに相談できる動物病院との関係を作っておくと安心です。
猫の糖尿病と向き合う:日常で気をつけたいこと
糖尿病と診断された猫ちゃんと暮らすのは、最初は不安や戸惑いがあるかもしれません。でも、日々のケアを積み重ねることで、猫ちゃんも飼い主さんも安心して暮らせるようになります。
最後に、日常生活で特に気をつけたいポイントをご紹介します。
● 1.毎日の観察を大切に
- 食欲や水の飲み方、おしっこの量をチェック
少しの変化も見逃さず、メモを取ると病院での相談がスムーズになります。 - 元気や表情の変化に気を配る
いつもと違う様子があれば、早めに獣医さんに連絡しましょう。
● 2.規則正しい食事管理を心がける
- 獣医師の指示に従った療法食を与える
糖尿病のコントロールには食事内容がとても重要です。 - 食事時間をなるべく一定にする
血糖値の変動を抑えやすくなります。 - おやつや間食は控えめに
糖分が多いものは避けましょう。
● 3.インスリン注射や薬の管理を丁寧に
- インスリン注射は決められた時間・量を守る
自己判断で勝手に変更しないことが大切です。 - 飲み薬(センベルゴなど)も指示通りに与える
忘れず続けましょう。 - 注射や薬の保管にも注意を
暑さや直射日光を避け、保存方法を守ってください。
● 4.ストレスをできるだけ減らす
- 環境の変化や激しい運動は控えめに
ストレスは血糖値を乱す原因になります。 - 穏やかな時間を一緒に過ごす
撫でたり話しかけたりしてリラックスさせてあげましょう。
● 5.定期的な通院・検査を欠かさない
- 血糖値のチェックや体重測定、健康診断を継続する
病状の変化に早く気づけます。 - Freestyleリブレなどの測定器を活用する
自宅での管理が楽になります。
● ● 最後に
糖尿病は一筋縄ではいかない病気ですが、適切な治療とケアで十分にコントロール可能です。
愛猫の様子にしっかり目を向けて、獣医師と力を合わせていきましょう。
「今日も頑張ったね」と声をかけながら、一緒に歩んでいく毎日が、猫ちゃんの幸せにつながります。
横浜市鶴見区、神奈川区、港北区周辺で糖尿病治療に悩まれている方はぜひ一度当院にご相談いただければと思います。
ピア動物医療センターでは糖尿病が重症化したケトアシドーシスも治療経験が豊富です。安心してご来院ください。