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ドッグフードの選び方①:グレインフリー?添加物?
はじめに
ペットショップやインターネット通販を見ていると、「グレインフリー(穀物不使用)」のドッグフードをよく目にします。「穀物が入っていない=体に良い」「アレルギー対策に最適」といったイメージから、飼い主さんの間で人気が高まっています。
しかし近年、グレインフリーやいわゆる一般的ではない食事(主な炭水化物源が穀物ではなく、「豆」「じゃがいも」「サツマイモ」など非穀物性の炭水化物源を多く使っているもの。)が犬の心臓病、とくに拡張型心筋症(DCM: dilated cardiomyopathy)と関連する可能性があると報告され、専門家の間で議論が続いています。はたしてグレインフリーは優れた食事なのでしょうか?
結論から言うと健康な子にグレインフリーのドッグフードを与えることにメリットはありません。
なんたらフリーと書いて売った方が売れるからであって、科学的な根拠に基づいて一般的な食事に勝ると証明されてはいないのです。
この記事では、グレインフリーや添加物について整理し、「愛犬に合ったフードを選ぶために飼い主が知っておきたいポイント」を詳しく解説します。
ドッグフード選びの基本
まず大前提として、フード選びで大切なのは「流行」や「イメージ」ではなく、その犬に合っているかどうかです。
チェックすべきポイント
- 総合栄養食かどうか
「総合栄養食」と表示されているかを確認しましょう。AAFCO(米国)、FEDIAF(欧州)、日本の基準を満たしたフードなら、これだけで必要な栄養を賄えるように設計されています。 - 主原料は何か
動物性タンパク質(肉や魚)が第一原料になっているかどうかが重要です。 - 添加物・保存料の種類
不要な人工着色料や保存料が多く含まれていないかも確認したい点です。 - ライフステージや体質への適合
仔犬、成犬、シニア犬で必要な栄養は異なります。また肥満傾向、腎臓病、心臓病など既往がある場合は、専用の療法食が望ましいケースもあります。
グレインフリーとは?
「グレインフリー」は直訳すると「穀物なし」。
米・小麦・とうもろこしなどを使わず、代わりに豆類(レンズ豆、ひよこ豆)、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカなどを主な炭水化物源としています。
飼い主に人気の理由
- 穀物アレルギーを避けられる(動物ではあまりありません)
- 消化に良さそう
- 自然食・高級感のあるイメージ
グレインフリーのメリット
グレインフリーには以下のような潜在的な利点があります。
- 血糖コントロールの改善
一部の炭水化物源は血糖上昇を緩やかにする効果がある可能性があります。 - マイコトキシン(カビ毒)汚染リスクの低減
穀物はカビ毒のリスクがあり、穀物不使用でそれを避けられる場合があります。 - 嗜好性の向上
実際に犬が好んで食べることもあり、食欲が落ちている犬ではメリットになることも。
グレインフリーの注意点(リスク)
しかし、臨床研究(Freid ら, 2021)では、グレインフリーにリスクもあることが示されています。
1. 犬の拡張型心筋症(DCM)との関連
- Freid ら(2021)の研究では、グルテンフリー食 を食べていた犬で DCM が多く診断されたことが報告されています。
- 特に、食事を「一般的なフード」に切り替えた犬では心エコー所見が改善し、生存期間も延びたことが示されました。
2. 栄養バランスの偏り
- 穀物を除いた代わりに豆類やイモ類を多用すると、タウリンやカルニチンなど心筋の健康に不可欠な栄養素が不足する可能性があります。
- また、タンパク質や脂肪が高くなりやすく、腸内環境や体重管理に影響を与えることもあります。
3. アレルギーへの過度な期待
- 「穀物=アレルゲン」というイメージがありますが、実際には犬の食物アレルギーの多くは肉や乳製品が原因です。
- グレインフリーだからといって、必ずしもアレルギーが改善するわけではありません。
研究で分かっていることと、まだ不明なこと
- 分かっていること
- グレインフリーや豆類主体のフードを食べている犬で DCM が報告されている
- 食事を切り替えると改善する例がある
- まだ不明なこと
- DCM の原因が「グレインフリーそのもの」なのか、「原料の種類」「製造過程」「栄養素の不足」なのかは解明途上
- 猫における影響は犬ほどはっきりしていない
獣医師が勧めるフード選びのポイント
犬の食性は?
- 祖先のオオカミは肉食寄りの雑食
犬はオオカミを祖先に持ち、基本的には肉を主食としています。ただし、野生のオオカミも獲物の胃腸に入った植物、果実、草などを食べることがあります。 - 犬は「肉食動物」ではなく「雑食に近い肉食性」
犬は長い家畜化の歴史の中で、人間と共に穀物や芋類などを食べる生活に適応してきました。特に、デンプンを消化する酵素(アミラーゼ)を作る遺伝子がオオカミよりも多いことが科学的に証明されています。
つまり犬は肉が大好きですが、炭水化物もある程度は消化できる「雑食寄りの肉食動物」です。
「グレインフリー=健康」と思い込まない
グレインフリーはあくまで選択肢のひとつです。必要のない犬に与えるメリットは少なく、むしろリスクがあるかもしれません。
穀物が必ずしも悪ではない
多くの犬は穀物を消化できます。穀物にはビタミンや繊維も含まれ、むしろ健康に役立つこともあります。
食事変更は獣医師と相談して
とくに心臓病のリスクがある犬種(ドーベルマン、ゴールデンレトリーバーなど)や高齢犬は、フードの選び方が病気の予防や進行に直結します。
ラベルと成分表を確認する習慣を
- 「総合栄養食」表示があるか
- タンパク源が動物性主体か
- 必要なアミノ酸やタウリンが補給されているか
- 信頼できるメーカーか
添加物はいけないもの?
「完全に添加物や保存料が一切入っていないドッグフード」はほぼ存在しません。
栄養補強のための添加物は必須
- 犬の栄養基準を満たすためには、原材料だけでは不足するビタミン・ミネラルを合成ビタミンやミネラルプレミックスとして添加する必要があります。
- 例えばビタミンDやE、亜鉛などは自然食材だけでは安定して供給できないため、ほぼすべての総合栄養食に添加されています。
酸化防止のための保存料
- フードに含まれる油脂は時間とともに酸化 → 腐敗臭や栄養劣化を起こすため、酸化防止剤(保存料)が必須。
- 種類:
- 合成:BHA、BHT、エトキシキン
- 天然:ビタミンE(トコフェロール)、ビタミンC、ローズマリー抽出物 など
- 「保存料不使用」と書かれていても、実際は天然の酸化防止剤が入っているケースがほとんどです。
「無添加」と表示されるケース
- 「無添加フード」と書かれていても、実際は合成保存料・着色料・香料を使っていない代わりに天然の酸化防止剤やビタミン類を添加という意味で、完全無添加ではない。
- もし本当に一切添加物を入れなければ、栄養のバランスが崩れたり、酸化や腐敗で安全に流通できなくなります。
飼い主ができること
- いきなり全量を切り替えるのではなく、1週間ほどかけて徐々に切り替える
- フードを変えた後は、便の状態、毛並み、体調を観察する
- 年1回の健康診断に加え、必要なら心エコー検査や血液検査でチェックする
- 食いつきだけで判断せず、長期的に健康を維持できるかを基準にする
ドッグフードまとめサイトに注意!
インターネットで「ドッグフード おすすめ」や「グレインフリー 比較」などと検索すると、ランキング形式のまとめサイトがたくさん出てきます。また有名Youtuberが宣伝していたりSNSで流れてくるペットフードも多くあります。
ですが、その多くはアフィリエイト広告(販売リンクから報酬を得る仕組み)によって成り立っています。
なぜ注意が必要か?
- 中立的な情報ではない
広告収入を目的に作られたサイトでは、科学的根拠や獣医学的視点に基づいてフードを評価しているとは限りません。 - 実際に検証されていない場合が多い
「ランキング1位」と書かれていても、販売データや臨床研究の裏付けがないことがほとんどです。 - 偏ったイメージを与える
「穀物=悪」「グレインフリー=絶対に良い」「添加物=悪」といった極端な表現で、飼い主に誤解を与える記事も少なくありません。
まとめ
- グレインフリーは一部の犬(穀物アレルギーがある犬)にとって有効ですが、すべての犬に必要なものではありません。グレインフリーのものをあえて選んで買う必要はありません。
- 最新の研究では、グレインフリーや豆類主体の食事と心臓病の関連が示されており、食事を変えることで改善した例もあります。
- フード選びで大切なのは「流行」ではなく、その犬に合っているか・栄養的にバランスが取れているかです。
- 動物病院で紹介するようなちゃんとしたメーカーのものであれば添加物についても過度に心配する必要はありません。
- グレインフリーを謳っているもの、タレント・獣医師の〜がおすすめなどが書いてあるのはマーケティング目的です。昔から科学的に研究してきたメーカーはわざわざそのようなことは書きません。その辺りも含めて判断しましょう。
以上、グレインフリー食や添加物について解説させていただきました。
横浜市鶴見区のピア動物医療センターでは食事についてのアドバイスもしております。ぜひ獣医師や看護師にお気軽にご相談ください。